Creation218号
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「権日※4威本あ学る士学院術賞賞」、を受賞小額貨幣の意義を改めて強調するという仮説を立てて、実態解明を進めてきました。しかし、利用可能なデータは極めて乏しく、関連する断片的な残存資料を突き合わせながらの研究であり、自ら手掛かりとなる資料を探して全国を回ることもありました。その結果、貨幣改鋳は幕府の財政的要因を重視して行われていたとされていたのが、経済発展に伴う貨幣需要に即応した貨幣供給の側面がより重視されるべきであること、人口動向分析からも近世後期は都市より地方で経済が発展したことなどが明らかになってきました。さらに近世日本の貨幣経済化     が東アジアのなかでどこまで進んだか、中国や李氏朝鮮との比較分析も行い、18世紀末までには両国に追いつき、相応の発展をしていたことが確認できました。〜19世紀後半で三貨全体の在高が8倍前後に増加したこと、金銀貨の多くが小額面に改鋳されたこと、辺境地域では高額取引でも銭貨が多く使用される場合があったことなどが新たな知見として得られました。また〝銭は端数処理に使われていたもので、金銀貨の補助的な貨幣に過ぎない〟とされてきたのを、〝人口の8割以上を占める農民・庶民の経済的地位向上に不可欠な貨幣だった〟という解釈を得られました。「過去のあゆみから教訓を得て現代に活かす」ことにあります。私の研究は、従来の貨幣史における論争史にはあまり深入りせず、貨幣がどのように使われてきたかという事実の発見の報告にとどまります。しかし、貨幣が経済発展にどう貢献したかということで、常に問われているのは〝貨幣に関する信用・信頼〟で長年にわたる研究によって、17世紀末歴史学は未来学であり、その意義はす。貨幣動向について事実関係を明らかにすることは、例えば暗号通貨への対処が不可避な現代の金融政策にも直接つながってくることなのです。退職後に研究の集大成でもある『近世貨幣と経済発展』を上梓。その翌年には本書が「徳川賞」という日本近世を対象とする研究の年間最優秀作に選定され、さらに2年半後の今年、「日本学士院賞」という学術研究では最高の名誉ある賞をいただくことができました。喜びと同時に、他にも立派な研究成果を発表されている同学者と多く交流があるだけに「どうして自分が?」という複雑な気持ちです。その一方で、地方私立大学勤務では無縁の賞と思っていました。しかし、あらためて「授賞審査要旨」に目を通してみると、従来の貨幣史研究アプローチを脱するあらたな枠組みと、学界で求められてきた「貨幣の経済史」構築により共有可能なデータが提示できたことが評価されており、自身でも納得できました。松山大学は地方私立大学ですが、学会・研究会へ参加できる機会も多く、他大学と比べて研究環境が決して劣っているとは思いません。私は本学赴任以来、学生部活動において柔道や剣道そして女子駅伝部等が全国一となった実績も目撃でき、頂点を目指して地道に努力する大切さを学ばせてもらいました。100周年を迎えた松山大学がこれまでの周年ごとに打ち出された一時的な決意表明のみで終わってしまうことのないよう、高みを目指し着実に努力を継続して発展してゆかれるよう願っています。天皇皇后両陛下の御臨席のもと行われた日本学士院賞の授賞式。(日本学士院提供)日本学士院賞を受賞した『近世貨幣と経済発展』(名古屋大学出版会、2019年10月)ほか、岩橋名誉教授の著書と日本学士院賞賞■および賞状。※4…日本学士院が毎年優れた学術研究を選定し、その研究に関わった研究者に対して授与される賞。歴代の受賞者には、野口英世、金田一京助博士やノーベル賞受賞者の湯川秀樹、山中伸弥、本庶佑博士らが名を連ねる。

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