タイ漁民の事例資源回復に取り組む研究を通じて現場の問題の解決策を模索する(JICA)で勤務し、アジア・アフリカ・中南米地域などにおける環境破壊や貧困の深刻な状況を目の当たりにしてきました。一方で、そうした国々においても見習うべきユニークな取り組みが行われ、他国との共有に値する手法が存在することも同時に見聞してきました。それらを学術的に研究することで、他地域が抱える類似した課題を解決していくことに役立てたいと考えたのが、この研究に取り組んだきっかけです。思議に思われることもありますが、英語英米文学科が目指すビジョンの一つには〝国際的な舞台で英語を使って活躍できる人材を育成する〟というものがあります。グローバルな課題についての研究と教育を実践できる教員のポストが公募されているのを知り、手を挙げて松山大学にやって来ました。タイでの興味深い取り組みについて聞いたことが、タイでの研究に取り組むことになったきっかけです。タイで漁獲されているカニは、高級食材として取引されるために乱獲されて激減。そこでカニ漁に収入を依存する漁民たちが「資源を増やそう」と、抱卵したメスのカニを生簀等で飼育し、孵化させた稚ガニを放流することを始めました。マングローブや海草の植栽をしたり、小型のカニは獲らないなどの持続可能な資源利用のためのルールをつくったり、付加価値をつけた加工品をオンラインで販売したりするなど、海の環境を守りながら収入を増やす努力をしてきました。漁師たちは「カニが増えてきた」と認識し、収入も戻ってきましたが、本当にその取り組みによって効果があったのか、まだ本格的な検証はされ農学や理工学系の分野では?」と不長年かかわっているNGOの知人から、ていません。現場の状況に合った漁業資源の回復と貧困問題の解決方法を開発することを目的として、インタビューやアンケート調査を主体に、まずは現場を知るためのアプローチをしているところです。まだタイには3回しか行けておらず、研究はまだまだこれからといったところです。どのような仕組みや施策をつくれば皆が協力し合ってルールを守り、持続可能な漁業ができるのか、定量・質的なデータをもとに検証しようとしています。同時に、稚ガニを放流することで本当にカニの漁獲量は増えるのか、自然環境に悪影響を及ぼすことはないのか等、様々な側面から検討する必要があります。研究チームには経済学者や生態学者など様々な分野の研究者がいて、多角的な視点から研究しています。国によって人種も文化も社会情勢も違うため、ある国での事例が他国でもそのまま当てはまるということはありません。しかし、その中にも部分的には他地域でも導入可能と思えることを見出せることもあります。研究によってそれらを明らかにできれば、環境や資源の保全と人々の暮らしの両立に役立てることができるのではないかと考えています。学会発表や論文執筆も大事なことですが、私は〝現場を研究することを通じて、実際に起きている環境破壊や貧困問題の解決に貢献したい〟という思いを持っています。現場では様々な社会・経済・文化・環境面などの事象が複雑に絡み合っており、それらを学術的に解明することは容易ではありません。長い道のりですが、「少しでも現場の役に立ちたい」との思いで研究を続けています。 「 6学術研究写真左は2011年、JICAでの活動中にウガンダの子どもたちと。右は2023年、タイ・トラン県の漁村での調査の様子。新井准教授は「開発途上国の人々と交流していると、日本人が失いかけてしまっていることに気づかされ、人生観が変わることもある」と話す。今年2月12~17日まで、学生たちと共にタイの漁村を訪問し、マングローブ植林や稚ガニの放流活動などを実施。「学生たちに海外でいろいろな経験をしてもらうことで、世界観を広げてほしい」と新井准教授。CREATION NO.221
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